研究成果

健康無関心層のセグメント化と効果的介入手法の検討:ライフステージに着目して(令和4 年度~令和6年度(予定))

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「健康無関心層のセグメント化と効果的介入手法の検討:ライフステージに着目して」(令和4年度)での研究成果のまとめは以下です。

目 的

健康寿命の延伸、疾病予防、健康増進を目的に、特に健康無関心層に対して効果的な介入を実施するため、健康無関心層の特性把握と同定方法、および健康無関心に関連する要因を明らかにすること、新しい生活様式の中で効果的な取組を実装するために、集団をセグメンテーションする方法を明らかすること、および各種取組の健康無関心層と健康格差への影響を明らかにし、効果的な取組方法を提言することを目的とする。

方 法

上記を目的に、研究1:健康無関心層の定義および尺度開発、研究2:職域保健プログラム「健診戦」の効果、研究3:国民生活基礎調査データを用いた健康無関心層の特性把握、研究4:健全な食生活を心掛けていない者の特徴:若い世代を対象とした検討、研究5:健康無関心層における禁煙関連イベントの認知度・禁煙キャンペーンへの曝露と翌年の禁煙状況との関連、研究6:研究コロナ禍における先延ばし傾向と感染予防行動、研究7:若年女性に着目した行動変容ステージ別の特性と客観的に評価された身体活動の分析を実施した。

結 果

(研究1では、異なる観点から5つの健康無関心層の定義ならびにそれぞれの利点と欠点を示した。また、12項目の健康関心度尺度の質問紙から因子分析等の結果に基づき、3つのサブスケールそれぞれ2項目からなる短縮版を作成し、その妥当性を示した。

研究2では、健康関心度高群は、労働時間が短い傾向がみられた一方で、健康関心度低群は、健診戦への参加割合が低い傾向があり、喫煙行動がある、運動習慣がないといった特性がみられた。健康アウトカムの変化に関しては、健康関心度中等度群において、健診戦参加群でBMIの改善が大きかった。

研究3では、健康行動の数や、婦人科がん検診の未受診者割合は、年齢や社会経済状況、同居家族等の属性によって異なり、その差には性差があることなどが示された。

研究4では、健全な食生活の心掛けについて,男女差がみられ,男性に比べて女性で心掛けている者が有意に多いことなどが示された。

研究5では、健康無関心層の喫煙者のうち、2019年時点で禁煙を試したことがある者は101名(15.4%)、2020年時点で禁煙を達成した者は98名(14.9%)であった。禁煙関連イベントや情報と翌年の禁煙達成との関連を見ると、「健康日本21」「WHOのたばこ規制枠組み条約」「JTの新聞広告」を知っている又は見たことがあると回答した群で、知らない又は見ていないと回答した群と比べ、有意に禁煙達成と関連していた。

研究6では、「先延ばし傾向あり群」は,「先延ばし傾向なし群」に比べ,新型コロナウイルス感染恐怖が低く,ワクチン陰謀信念が低いことが示された。

研究7では、若年女性の「前熟考期」は痩せている人が多く、身体活動に関しては活動強度が不足している集団と推察された。

考 察

健康無関心層を定義し、定量化する尺度の短縮版の作成により、集団において健康無関心層を同定し、アプローチすることがより簡便に可能となる。また、各種調査の分析により、健康関心度尺度等と健康行動との関連が示された。これらの結果をもとに、ナッジを応用した健康づくりガイドブックの公開、研修会等により研究成果の普及啓発とともに、健康無関心層への効果的なアプローチ方法として、ナッジと行動経済学を応用した取組を推進することに貢献できた。

 

 

健康への関心度による集団のグルーピングと特性把握ならびに健康無関心層への効果的な介入手法の確立(平成 31 年度~令和 3 年度)

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「健康への関心度による集団のグルーピングと特性把握ならびに健康無関心層への効果的な介入手法の確立」(平成 31 年度~令和 3 年度)での研究成果のまとめは以下です。

目 的

本研究は、健康寿命の延伸、疾病予防、健康増進を目的に、特に健康無関心層に対して効果的な介入を実施するため、(1)健康関心度に応じたグルーピングとその特性の把握、(2)健康への関心度の概念の整理と定義づけ、定量化指標(健康関心度尺度(仮称))の開発、(3)先行研究のレビューによる、健康無関心層を中心とした集団の特性に応じた具体的で効果的な介入手法の検討、(4)健康無関心層も含めた疾病予防・健康づくりの推進に向けた取組の提案することを目的とする。

方 法

各担当分野において、研究1=ナッジ理論の応用パイロット事業とポピュレーションアプローチの類型化、研究2=健康関心度尺度の開発に向けた研究、研究3=行動科学を応用して健康への関心度に関連する社会的属性に配慮して考案した職域保健プログラム「健診戦」の効果に関する研究、研究4=食生活関心度尺度の開発と食生活への関心が低い者の特徴、研究5=健康や禁煙への無関心とその喫煙や禁煙達成に与えた影響に関する研究、研究6=行動経済学を応用した体を動かす人を増やす研究、研究7=マルチメディアを用いる、健康関心度に応じた行動促進介入の探索に向けた研究を行った。

結 果

(1)研究1:複数の事業所にてナッジ理論の応用パイロット事業を実施した。健康への関心度により集団を3層に分け、それぞれのリスクの低下の程度により、ポピュレーションアプローチの4つの類型を提示した。

(2)研究2:3つの下位尺度からなる12項目の健康関心度尺の質問票を作成し、その妥当性と信頼性を検証した。さらに、英語版の作成を行った。

(3)研究3:健診戦参加者ほどBMI、体重、腹囲のプログラム前後で数値の改善がみられ、その効果は特定保健指導対象者ほど明確であり、改善度合いに職位による差はみられなかった。

(4)研究4:食行動に関する健康無(低)関心層は、男性、低年齢層などの属性のほかに、暮らし向きにゆとりがそれほどないこと者が多いことが示された。また、12項目、2つの下位尺度からなる食生活関心度尺度の信頼性・妥当性を確認した。さらに、男性, 未婚者, 暮らし向きにゆとりがない者では,コロナ禍において食生活への関心度が低下する者が多いことが示された。

(5)研究5では、男女ともに、関心度が低くなると喫煙者の割合が高くなる傾向を認めた。健康への関心度と禁煙への行動変容ステージの相関が認められた。禁煙関連キャンペーンへの曝露と翌年の禁煙達成については、禁煙支援書籍の読書経験にのみ有意な関連が見られた。

(6)研究6:対象者特性に応じた介入の検討は少なかったが、身体活動促進に寄与する可能性のあるナッジを特定した。開発した新規プログラムは、無関心層にも一定の効果が認められた。

(7)研究7:マスメディアキャンペーンを用いた健康促進介入研究の論文のレビューから、ヘルスリテラシーに制限のある集団に対しては、テレビやラジオなどの伝統的なメディアでの取り組みがあった一方、スマホなどの情報通信機器に習慣的にアクセスする集団へはTwitterなどのソーシャルメディアを用いた取り組みが報告されていた。また、インターネット質問紙調査の結果、低関心度・高習慣の群には定期健診やがん検診の未受診者が多かった。これらの結果をもとに、「低関心度・高習慣群」及び「高関心度・低習慣群」を対象としたマルチメディアキャンペーンをデザインした。

考 察

健康無関心度の尺度の開発を行うとともに、健康無関心層の類型化の案を提示し、アプローチ方法を検討した。同時に、喫煙・禁煙、食事、保健指導、身体活動・運動、減量の個別な生活習慣について、健康無関心の観点から、具体的な介入方法を検討し、パイロット事業を実施することができた。論文や研修会等を通じて、研究成果を広く普及啓発することができた。

 

研究成果の詳細は、「厚生労働科学研究成果データベース」より閲覧可能です。

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